大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和26年(ワ)6029号 判決

原告 香川元志

被告 川村春男

一、主  文

被告は原告に対し金五万四千円及びこれに対する昭和二十六年一月一日からその支払ずみに至るまで年一割の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告が金一万八千円の担保を供するときは、仮りにこれを執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求める旨申立て、その請求の原因として、

(一)  原告は昭和二十五年四月訴外古田鉄雄と被告と三名共同で被告が考案した英文タイプライター練習機の製造販売事業を経営し、被告は技術を、古田鉄雄は既存設備を、原告は現金を夫々出資した。ところが事業が不成功に帰したので、同年六月下旬、共同事業経営を解散し、被告の個人経営に移した。

(二)  被告は共同事業経営上、原告との間に生じた経費を清算し、原告に対し清算残金五万四千円を返済することを承諾し、同年六月二十二日原、被告間に、左の様な骨子の準消費貸借契約と譲渡担保契約を締結した。

(1)  借受金額、金五万四千円。

(2)  返済方法、昭和二十五年七月以降同年十二月末日迄、毎月末日限り金一万円以上を月賦支払すること。

(3)  利子、月五分の割合で元金支払の都度支払うこと。

(4)  担保、被告の有する昭和二十五年実用新案登録願第九一九五号(英文タイプライター練習機)による実用新案の登録を受ける権利の一部を原告に譲渡すること。

(三)  しかるに被告は昭和二十五年九月末日、金五千円を原告に支払つたのみで、その後全然支払をしないので、原告は右の金五千円をまず右準消費貸借による元金五万四千円の約定利息に充当したところ昭和二十五年八月二十五日までの分の利息の支払に当てられた。そこで原告は被告に対し右元金五万四千円及びこれに対する昭和二十六年一月一日以降(昭和二十五年八月二十六日から同年十二月末日までの分は請求しない。)完済まで利息制限法の範囲内で年一割の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告の主張の事実中原告が昭和二十五年七月頃被告主張の実用新案の登録を受ける権利の一部の譲渡を受け共同出願者となつたことは認めるが、その余の事実は否認する、右は被告から担保として提供を受け共同出願者となつたもので、代物弁済を受けたものではないと述べた。<立証省略>

被告は原告の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、原告主張の(一)の事実、(二)の事実中被告が原告に対し清算残金五万四千円の返還を承諾したこと、昭和二十五年六月二十二日原告主張の契約内容の記載がある準消費貸借契約書に捺印したこと、(三)の事実中被告が金五千円を原告に支払つたこと、はいずれも認めるが、その余の原告主張の事実は否認する。そして右契約書に定めた月五分の利子は、原告が証書の形式上挿入したものであり履行を必要としないものである。と述べ、抗弁として仮りに被告が原告に対し、原告の主張する債務を負担するとしても、被告が期日に弁済できないときは、その代物弁済として被告の有する実用新案の登録を受ける権利の一部を原告に譲渡することを約し権利譲渡に必要な書類を原告に交付しておいたところ、被告が期日に弁済しなかつたので原告は右書類を利用して右権利の一部の譲渡手続をとり、共同出願者となつているから、被告の債務は代物弁済により消滅したものであつて、原告の本訴請求は失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告が昭和二十五年四月訴外古田鉄雄と被告と三名共同で被告の考案に係る英文タイプライター練習機の製造販売事業を経営し、被告は技術、古田鉄雄は既存設備、原告は現金を夫々出資したこと及び右事業が不成功に終り被告の個人経営に移し、共同事業経営上原、被告間に生じた経費を清算して被告が原告に清算残金五万四千円を返済することを約し、昭和二十五年六月二十二日原告主張の準消費貸借及び譲渡担保契約の文言の記載ある契約書に被告が捺印したことはいずれも当事者間に争がない。

成立に争のない甲第一号証及び原告本人訊問の結果によれば、被告が原告に返済することを約した清算残金五万四千円について昭和二十五年六月二十二日原、被告間に、これを準消費貸借の目的とし被告はこれを同年七月から同年十二月まで毎月末日限り金一万円以上の月賦で弁済すること、利息は月五分の割合で支払うことを約したことを認めるに足りる。被告は原告との間に締結した右準消費貸借契約の内容について、利子月五分という定めは形式上のもので履行を要しないものであると争うが、前記甲第一号証及び原告香川元志の本人訊問の結果によれば、本契約はもとより利子の定めも形式的な履行を必要としないものと認めることはできない。これに反する被告本人の供述は採用できない。

次に被告は、右契約の返済期日までに債務を返済できないときは被告はその代物弁済として原告に対して被告の有する実用新案の登録を受ける権利の一部を譲渡することを約し、被告が返済期日までに債務を返済しなかつたので原告は右契約により実用新案の登録を受ける権利の一部を取得し共同出願者となつたから、被告の債務はこれにより消滅したと主張するから按ずるに、前記甲第一号証によれば、前記準消費貸借の契約証として作成された証書(甲第一号証)第四項に「前記期日に至るも返済できないときは原告に対し被告は実用新案の登録を受ける権利の一部を譲渡することに異議ない」旨の記載があること明かであつて、この条項の趣旨について被告は本件債務を期日に返済しないときその代物弁済として右の権利を原告に譲渡する旨を約したものであると供述するが甲第一号証及び原告本人訊問の結果に照すときは被告の右供述はただちに採用し難く、その他に被告主張の事実を認めるに足りる証拠がなく、右甲第一号証及び原告本人訊問の結果によれば、右の条項は被告の債務を担保する目的で為されたものと認めるのが相当である。もつとも実用新案法第二十六条によつて準用される特許法第十二条第一項によれば、実用新案の登録を受ける権利はこれを移転することはできるが、担保に供することができないことが明かであるが、右の規定にいう担保とは権利質の設定の場合を指しいわゆる譲渡担保を含まないと解すべきであるから、右認定のように被告がその主張の実用新案の登録を受ける権利を原告のため譲渡担保に供するも何等右法条に違反するものではない。よつてこの点に関する被告の抗弁はこれを採用しない。

そして被告が昭和二十五年九月末日原告に金五千円を支払つたことは当事者間に争がなく、原告本人の訊問の結果によれば、右金五千円は元金五万四千円に対する昭和二十五年六月二十二日から同年八月二十五日までの約定利息の弁済に充当せられたと認めるのが相当である。しからば被告は原告に対し元金五万四千円及びこれに対する右充当以降の昭和二十六年一月一日からその支払ずみに至るまで利息制限法第二条の制限の範囲内である年一割の割合による遅延損害金の支払を為すべき義務があるものといわなければならない。

よつて原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯山悦治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!